僕はドラムを叩くことが出来る。
ただ僕の雰囲気には余程似合ってないらしく、人に話すと「え〜、ホントですか?」と言われる事が多い。
どちらかと言うとキーボード系だそうだ。
もちろん「叩ける」とは言っても、当然プロではないから、ソコソコではあるが・・・。

僕がドラムを始めたのは中学校3年の夏。
友人「ヒロ」の誘いがきっかけである。
ヒロとは2年生のクラス替えで同じクラスになった比較的新しい友人だったが、何かと気が合って一緒に遊ぶ機会が多かったと思う。
そんなある日たまたま一緒に街に出かけた時、ヒロが買ったCDが全てのスタートだった。

CDは当時大人気だったブルーハーツの「TRAIN−TRAIN」。
初めて聞いたのはヒロの部屋だったが、正直かなりの衝撃を受けた記憶がある。
良い曲なのもそうだが、僕には歌詞の方がより衝撃だった。
〜栄光に向かって走るあの列車に乗って行こう〜
〜裸足のままで飛び出してあの列車に乗って行こう〜
受験生なのになんとなく生きていた僕の心に、まるで染込んでくるような気がした。
多分その頃は、何が何だか分からなかったんだと思う。
毎日学校に通うのが当たり前で、「教室」という存在自体がまるで人生の全てのような錯覚さえ感じ、自分がこれからどこに行くのかさえも理解できなかった。
そんな毎日からはみ出すことが、とんでもない恐怖だった気がする。
「みんなと同じ」が心地よかったし、ある意味平均点が一番楽。
裸足のままで飛び出せるほど乗りたい列車がある歌の中の誰かが、僕にはすごくカッコ良く思えた。

「なぁ、バンドやってみねぇ?」
ボーッと曲を聴いてた僕にヒロが声をかける。
「バンド?」
ちょっと予想外の話だったんで、僕はちょっと拍子抜けしてしまう。
当時の僕の中でバンドで楽器を演奏する人達は、全く別の世界の人達だった。
「そんなに簡単にムリだろ」
僕の醒めた答えに、ヒロは笑顔で押し入れてを開ける。
そこには僕が彼の部屋で見たことのない新しいギターがあった。
「買ってもらったんだ」
呆気に取られる僕を尻目に、ヒロはギターを肩にかける。
なんとなくだが、彼が「向こうの世界」の人に見えた。
「いいな、やってみようぜ」
いつもだったら僕はもっと慎重派の筈。
ハッキリと答えた僕に、ヒロはちょっと驚いたようである。
それよりも一番驚いたのは僕自身だった。
裸足のままで駆け出すのも悪くないと思ったのだろう。

結局、僕はドラムをやることになった。
理由は「楽器が安いから」という、ただそれだけの事。
まあ実際ドラムセットはかなり高いが、普通練習スタジオにはドラムセットが置いてあるので、まあ最初はスティックだけでいいか・・・という理論である。
ヒロがギターを弾いて僕がドラムを叩く・・・というたった2人のバンドだったが、僕らにとってはそれで十分楽しかった。

それから半年後の高校受験。
結局僕はヒロと同じ高校に進んで、結局同じクラスになった。
僕達は早速残りのパート2人を加入させ、本格的なバンド活動を始めていく。
それが一般的に言う「バンドブーム」の始まりの頃。
僕達はそのブームにのって数回のライブをこなし、コピーバンドではあるが地元の音楽好きの間では少しだけ有名になった。

その頃はもう学校の勉強そっちのけで、毎日音楽のことばかり考えていた気がする。
ライブの終わった瞬間の充実感と気持ちよさは、僕が中学生の頃に裸足で駆け出したあの日、それが正しかったと思わせるのに十分なものだった。

・・・というのが、僕がドラムを叩くことになった経緯である。

  
  

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