僕が通っていた幼稚園では、「ハンカチ遊び」という時間があった。
自分の持って来ているハンカチを折ったり結んだり、色々な形を作る遊びである。
そんな何でもない事だけど、ちょっとした理由があって僕はまだ覚えていた。

「は〜い、ハンカチ遊び始めてくださ〜い」
先生の声で、僕を含めたクラスのみんなは机の上にハンカチを出す。
みんなは綿にアニメキャラとかが書いてあるハンカチだったが、母親が僕に持たせてくれたハンカチはガーゼのハンカチで、アニメキャラなんか印刷もされていただの白で、黄色の縁取りがとれているだけ。
しかもガーゼだから、折ったり結んだりっていうのが、すごい難しいハンカチだった。

みんなと1人だけ違う・・・という事に当時の僕はすっかり取り乱してしまい、ハンカチ遊びの時間はそのままずった下を向いていた記憶がある。
その夜、僕は看護婦をしていた母が帰ってくると、すぐに玄関にハンカチを持っていった。
「こんなんじゃダメだよ、みんなと同じにして」
イラついて声を大きくする僕から、母は黙ってハンカチを受け取る。
「そうなの、じゃあ買ってこないとね」
そのまま母は着替えるために部屋に向かっていく。
僕は目的を達成した達成感で、少しだけ気分が良かった気がする。

それから2日して、母親はみんなが使っているようなアニメキャラのハンカチを買ってきてくれた。
お陰でそれからのハンカチ遊びの時間は、かなり充実していた気がする。

その時のガーゼのハンカチを、ひょんな事から見つけたのはちょうど20歳の時だった。
結局はほとんど使ってないまま保管されてたから、まだ当時と同じ綺麗なまま。
懐かしさに広げてみると、当時は気付かなかったタグがついてて、「アトピー用」という文字がそこに書かれていた。

そう当時、僕はアトピー性皮膚炎だった。
看護婦だった母は、ガーゼのハンカチが肌に良いことは知っていたのだろう。
それを踏まえてあの時の事を思い出すと、何かとても母にひどい事をした気になった。

どうしようか・・・・少しそのまま考えた僕だったが、結局は何事もなかったように元の場所にハンカチを戻し、見なかったことにすることにした。
まだあの時に事を母と話するのは、少し早いような気がしたから。

あれから今年でちょうど10年。
今年もはだ早いかどうかは、今の僕ではかなり微妙な状況になっている。

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